New Year's Day is the key of the year.


静かな夜だった。
市街地から離れた少し小高い丘の上。
満天の星空の下に「港302」は停まっていた。
既にエンジンは冷え切り、ドアに寄りかかって紫煙を吐き出す2人の男。
言わずと知れた港署名物刑事の鷹山敏樹と大下勇次の姿があった。

2人はぼぅっと星を眺めていた。
どこからともなく低く響く音の回数を互いに数えあっている。

「56〜」
「・・・57」
「58〜」
「・・・59」
「ろーくじゅうっ」

年末年始特別警戒はまだ続いていた。
パトロールを放り出して静かな所へ来て除夜の鐘を楽しむ。
静まり返った夜に低く響く除夜の鐘。
まさに「大晦日」という具合で情緒もあった・・・・が、
最初のうちは良かったが徐々に飽きてきていた。

「74〜」
「・・・75」
「76〜」

もう少しで108回だったが、敏樹は少し意地悪したくなった。

「・・・・・・81」
「82〜ってあれ?タカ!違うだろ飛ばしただろえーっといくつだったっけ」

勇次が見事に釣られてくれたのでクックと笑いながらもしっかりカウントはしていた。

「今ホントに81」

調子が狂ってしまった勇次はむすっとしながらもカウントは続けた。

「82っ!」
「・・・83」
「84っ」
「・・・85」

カウントしながらいい加減寒いし、早く帰って汁粉か雑煮でも食いたい、と敏樹が思う。
実家に帰る予定も無い、というよりも実家など既に無い。
生まれ育った家は周囲の家も巻き込んで既に取り壊されて小奇麗なマンションが建っていた。

勇次も実家に帰る予定はない。車を飛ばせばすぐだが、今更帰ったところでゆっくりも出来ないしどうせ「まだ結婚しないのか」と言われるだけだ。
こんな仕事をしている限り結婚は無いと言っても「だったら転職しろ」と言う。
元よりそんなつもりなど無い。
こんな楽しい仕事を辞めるわけがない。
第一何か事件が起きたら即戻らなければならない。
だったら部屋でのんびりと過ごした方がマシだ。

「99〜」
「・・・100 もう飽きてるんだが」
「そういうなってあとちょっと101!」
「102 もう十分だろ、署に戻ろうぜ」
「なんだよ風情がねぇなぁ 103!」
「104 仕事中に風情も何もねえよ」
「少しでも楽しめこの大晦日を 105!」
「106・・・」
「107!あと1回!!」

勇次がそう言った瞬間だった。
眼下に広がる煌びやかなMM21から轟音と共に美しい色彩の花火が上がった。
おかげで最後の108回目はその音にかき消されて聞き逃してしまった。
しかし丁度開けた場所だったので打ち上げ場所からその花火を見る事ができる。
花火が上がったという事は0時を過ぎたのだろう。
2人は腕時計を確認すると、0時を15秒程過ぎたところだった。
結局仕事中に年明けを迎えてしまった。

「新年あけましてオメデトウゴザイマス」

棒読みに勇次が一礼をしながら言う。

「新年アケマシテオメデトウゴザイマス」

敏樹も棒読みで一礼した。

「今年もヨロシクオネガイイタシマス」

負けじと勇次も棒読みで返す。

「コトシモヨロシクオネガイシマス」

さらにやる気の無いような棒読みをして敏樹は一礼で返す。

顔を見合わせて互いにぷっと吹きだす。

「もうちょっと真面目に挨拶しろよー新年だぞ新年!」
「新年だろうがなんだろうが仕事は何も変わらん。いつも通りだ」

事件は待ってくれない。
例え正月だろうとなんだろうと、いつでも起きる。

「まあ、そうだよなぁ。・・・タカ、うちに雑煮食いに来いよ。オレの結構ウマいぜ」

自信たっぷりに勇次が言う。
お互い1人暮らしが長いため自炊に関しては色々工夫している。
確かに勇次の作る雑煮はシンプルで美味いというのを知っている敏樹はどうせ帰っても正月特番しかやっていないのでそれに付き合う事にした。

「じゃあオレは酒持っていくか。いいの買ったんだ。それ飲も・・・・」

少し機嫌が良くなって勇次に言っている最中、まだどこかで鐘の音がする。

「・・・さっき107回まで数えたよな?」

勇次も気付いたようで、頭を抱える。

「・・・しまった、ここって左右に丁度同じくらいの距離に寺あるんだった・・・」
「ってことは・・・」
「・・・2つの寺の鐘、カウントしちゃってた・・・」

あまりの間抜けさで再び笑い出す。

「ま、オレ達にゃ煩悩なんて108回じゃ足りないって事だろ」
「ユウジ、オレ達って・・・オレも含まれるのか?」
「タカなんて煩悩の塊だろ?」
「・・・・否定はしない」

しばしの沈黙中また笑い出し、冷え切った車内へ入る。
MM21の花火もそろそろ終わる頃だ。
まだ笑いが止まらない状態だったが勇次はエンジンをかける。

「何はともあれ・・・」

ハンドルを握って再び相棒を見た。

「今年もヨロシク」
「今年もよろしく」

煙草を取り出し火を付けて返す。

走り出す車のテールランプが尾を引く。
人から見れば味気ない年越しでも、これが彼等の日常。
新しい年を幾度迎えても変わらない。
また来年もこうして無事新年を迎えられればいい。
互いに胸の内で思いながら署に戻る道をゆっくりと走っていった。




Happy NewYear!!!!