STORY OF MY LIFE side-Y


phase-1

新緑の季節。
木々が風に揺れて木の葉が奏でるメロディが耳に心地が良い。
高い塀に囲まれたとある施設の唯一の出入り口のところで勇次は愛車にもたれかかって空を仰いでいた。

鉄製の重いドアがガチャリと空いて、1人の男が出てきた。
見送りの制服を着た男に一礼すると、空を仰いでうんと伸びをした。
その男の様子を見て勇次は安心したように優しく微笑んだ。

「よう、お勤めご苦労さん」
「お、大下さん!」

驚いたように男は勇次を見て声を挙げた。

「元気そうだな。悪かったな、全然会いにこれなくて」
「いえ・・・そんなこと無いッスよ。来てもらえただけで嬉しいです」

男の名前は滝田良。
再会は約10年ぶりであった。

滝田は約10年前、山梨南署管内で執行猶予がある状態で友人を守るために警官を殺してしまった男だった。
その後恩師に会うために横浜へ逃走。
山梨南署へ護送中に事件に巻き込まれた。

―――嫌だよ俺、刑務所なんて入りたくねえよ!!!

最初は宇宙船に乗るようなもの、と余裕だった滝田は巻き込まれた事件の犯人の手錠を打たれた姿を見てそう叫んだ。

正当防衛も認められず、また執行猶予中の犯行。そして警官殺しという罪で情状酌量も認められなかった。
だが模範囚として過ごしたために8年で仮釈放となった。

勇次は彼に対して思い入れがあった。
どうしてかは解らない。
ただ彼は何か放っておけないような幼さと危うさを持ち合わせていた。

久しぶりに出会った滝田は、あの頃の僅かに残った幼さは消え、立派な大人の顔つきになっていた。

「わざわざ横浜から?」
「ああ。今日仮出所って聞いた日から公休取ってた」
「・・・期待はしていなかったけど・・・やっぱ親父やお袋は・・・」
「・・・・・・・・・」

そう言われると勇次の表情が曇り、何も言えなくなってしまった。
滝田はそんな勇次の表情を見て慌てて明るく振舞うように慌てた。

「でもまさか大下さんが来てくれるなんて思ってもなかったから、俺すっげぇ嬉しいですよ!!」

健気な滝田の態度に勇次はまた、優しく微笑んだ。

「ま、こんなところで立ち話もアレだ。行こうぜ」

助手席のドアを開けてやると嬉しそうに滝田はスカイラインに乗り込んだ。



「あの子とはもう縁を切りましたから」

どうか迎えに行ってほしいと頼んだ滝田の両親は頑として譲らなかった。
加害者である息子のためにどれだけ苦労したかと勇次を睨みつけた。
増してや刑事である自分が説得に向かっても火に油を注ぐようなもの。

そう、滝田は警察官への過剰防衛として罪に問われたのだから。

仕方がない、と今度は以前滝田が務めていた工場へと足を運んでみた。

「・・・良君には悪いけどね・・・うちもこの有り様でして。この不景気で仕事も減ってまともに給料払えるかどうかも解らんのですわ」

出てきたらまた雇ってもらうと言っていたその工場は不景気の煽りを食らって従業員も少なく、滝田のような前科者じゃなくても雇う余裕は無いという。
仕事の内容や納期等を書いたホワイトボードにも空白が目立つ。
事業を縮小してもこの有り様だという。

滝田にこの事実を伝えるべきなのだろうか

「やっぱ、親も工場の方もダメでしたよね」

そう切り出してきたのは滝田の方だった。
両親の事は面会にも来なかったという事と、滝田が逮捕された頃よりも景気が悪いという話は塀の中でも伝わってきていた。
勇次はどんな言葉を掛ければいいか解らなかった。
ただ、現実は厳しい。

「ああ・・・何度もお願いしたんだけどな・・・」
「大下さんのせいじゃないッスよ。元々俺が悪いんですから。ご遺族に手紙も出しましたけど1通も返ってきませんでした」

そんな滝田の言葉に益々空気が重くなる。
やり直しの効かない年齢ではないのにこれほどまでに現実が厳しいとは思ってもいなかった。
方々に手は尽くしたが結局徒労に終わった。
結局あの時と同じ、彼に対して何もできないという自分を不甲斐なく思っていた。
が、それをあまり滝田の前で見せる訳にもいかない。

「とりあえず、出所祝いしようぜ出所祝い!」

明るく振舞って車を横浜方面へと走らせて行った。



横浜に着いたのは夕刻を少し過ぎ、空には星が幾つか瞬き始めた頃だった。
行きつけの酒場に滝田を招いて、同時に敏樹も誘った。
薫も誘いたかったのだが今晩は当直ということで後日また誘ってほしいとの事だった。

「大下さんって、何で刑事になろうと思ったんスか?」

久しぶりの酒とあって滝田も上機嫌になった頃、ストレートな疑問をぶつけてみた。
敏樹はよく「昔はワルだったけど、捕まるよりも捕まえる方が面白そうだ」という理由を聞いていた。

「オレさー、昔はすっげぇワルだったんだけどな・・・」

勇次はグラスを傾けながら語り始めた。