Our Dream
勇次は急いでいた。
一刻も早く現場に辿り着きたかった。
―――なんで、進まないんだ・・・!!!
同じ場所を何度も通り過ぎているような、既視感。
いつもなら手足のように扱えるレパードが、遅い。
どんなにアクセルを踏み込んでも踏み込んでも、速度が出ていないような気がする。
常にレブリミットまで回転数を上げ、何度もメーターは180km/hで止まってリミッターがかかる。
信号待ちやその他の車両をまるで縫うように走る。
しかし現場に辿り着けない。
一体どうなっているのか。
―――早くしないと、逃げられる・・・ダメだ、そんなのは!!!
何度も何度もそう思い、ひたすらに走る。
現場に辿り着けば「ヤツ」が居る。
相棒が憎み、共に何度も戦ってきた「ヤツ」が。
だからこそさっさと身柄を拘束して、相棒に手錠を打たせたかった。
きっと相棒も向かっているはず。
けれども間に合わなければ全てが終わる。
そんな気がして、一秒でも早く辿り着きたかった。
緊急無線が告げたその現場と「ヤツ」の名前。
聞いた時は何かの間違いだと思った。
信じたくなかった。
こんな形で決着が付くなんて思いもしなかった。
だから早く辿り着かなければならない。
一刻も早く。
敏樹は急いでいた。
一刻も早く現場に辿り着きたかった。
―――なんで、進まないんだ・・・!!!
同じ場所を何度も通り過ぎているような、既視感。
いつもなら手足のように扱えるスピードトリプルが、遅い。
どんなにアクセルを回しても回してもでも、速度が出ていないような気がする。
常にレブリミットまで回転数を上げ、何度もメーターは180km/hで止まって何故かリミッターがかかる。このバイクにはリミッターは無い。
信号待ちやその他の車両をまるで縫うように走る。
しかし現場に辿り着けない。
一体どうなっているのか。
―――早くしないと、逃げられる・・・でも本当なら逃げてくれ頼むから・・・
何度も何度もそう思い、ひたすらに走る。
現場に辿り着けば「ヤツ」が居る。
自分が憎み、相棒と共に何度も戦ってきた「ヤツ」が。
だからこそさっさと身柄を拘束して、相棒と共に手錠を打ちたかった。
きっと相棒も向かっているはず。
けれども間に合わなければ全てが終わる。
そんな気がして、一秒でも早く辿り着きたかった。
緊急無線が告げたその現場と「ヤツ」の名前。
聞いた時は何かの間違いだと思った。
信じたくなかった。
こんな形で決着が付くなんて思いもしなかった。
だから早く辿り着かなければならない。
一刻も早く。
敏樹と勇次は同時に現場に着いた。
互いに物凄い汗をかいていた。
暑い。熱い。
纏わりつくような熱と、これから起きる事への熱。
互いに目を合わせる。
ついにこの時がきたという目だった。
「タカ・・・・ヤツをついに・・・!」
だが敏樹の顔は少し曇っていた。
「ユウジ・・・オレは、納得ができない・・・」
嘘を言っても仕方がない。
敏樹は本音を漏らした。
「でも、これで逮捕できればきっと芋づる式に様々な事が出てくる!」
「そんな事は解ってるんだ!でも、それじゃオレが納得できないんだ!」
勇次も敏樹の気持ちを解っていた。
気休めだと解っていてもそう言うしかなかった。
敏樹も勇次の気持ちを解っていた。
だがどうしても納得がいかなかった。
2人の間に重い沈黙が圧し掛かる。
それでも行かなければならない。
周りには既に野次馬が来ていてただならぬ2人の様子を見ていた。
2人にはそんな野次馬の存在すらも目に入らない。
目の前の「ヤツ」が居る建物をしばらく見つめて、意を決したように互いに頷く。
「いくか、タカ」
「ああ、ユウジ」
意思を確認し合い、2人はその建物の扉を開けた。
「あー!おまわりさん!!やっと来てくれたのか!こいつだよこいつ!さっさとしょっ引いてくれ!!!」
白衣の親父が「ヤツ」に卍固めを決めていた。
「た、助けてくれ!!お、折れる折れる!!!死ぬ!!マジで!!!ヤバいってこの親父!!!」
「ヤツ」は必死の形相で2人に助けを求めた。
2人は想像以上の光景に唖然とするしかなかった。
「何やってんの!早くしょっ引いてくれ!」
「何やってんの!早く助けてくれ!!」
親父と「ヤツ」は同時に叫んだ。
「しょっ引くためにはまずはその卍固めを解いてくれ親父・・・」
敏樹は脱力のあまり入口の戸に身を委ね、額に手を当てながら力なく言った。
「バカヤロウ、逃げたらどーするんだオイ!こいつが何やったか解ってんのか!?」
「解ってるって・・・」
正直敏樹は泣きたかった。あまりの情けなさに。
勇次が静かに、気持ちを察するかのようにトントンと敏樹の肩を叩く。
「じゃあとりあえずね、あそこのお兄さんが手錠するから、そうしたら解いてくれるかな、卍固め・・・」
勇次が親父の目線の高さに合わせて親指でクイッと敏樹を指し示す。
「ユウジ!嫌だ!頼む!お前が手錠を打ってくれ!オレは・・・こんなヤツを追ってたんじゃない・・・こいつは・・・そうだ、別人だ!そっくりさんで同姓同名の別人なんだ!そうかそうかアハハハハハハハハハ・・・!」
敏樹が壊れだした。
勇次はそれを憐れむ目で見るしかなかった。
無理もない話だった。
まさか、長年ずっと憎み、追い続けていた銀星会会長 長尾礼次郎が無銭飲食でこうして食堂の親父に見事なくらいの卍固めを食らって自分達に助けを乞うているなんて。
そんな決着を迎えるなんて思ってもいなかったからだ。
いや、そんなので決着が付くなんて絶対に嫌だったからだ。
「何故だ、何故なんだ長尾・・・なんで・・・大衆食堂で無銭飲食なんてしたんだ!」
「腹が減ってたんだよ!!」
敏樹は本気で泣きそうになりながら長尾に問うと、真っ当な答えが帰って来た。
真っ当かどうかはさておき、無銭飲食という事実を除けば「腹が減っていたから飯を食った」という答えは正しい。
ブランドスーツに身を包み、銀星会会長としての威厳がまだそこに漂うからこそこのギャップが耐え切れない。
「腹が減ってたなら金払えよ!何でこんなのでお前しょっ引かなきゃいけないんだよ!終わりだぞ、銀星会終わるぞ!」
「俺の代で組織をでかくしたんだ。俺が幕引きやってやるんだ!ありがたいと思え!!」
一体誰がありがたがるのだろうか、勇次もあまりの情けなさに力が入らなかった。
もう何を言っても無駄であろう。
銀星会はもうこれで終わりだ。
勇次はもう立ち上がれない程にショックを受けた敏樹の代りに長尾のその腕に手錠をかけた。
「ほらおやっさん、手錠かけたからさっさと技解いてくれ。このままじゃ連行できない」
そういうが、親父は一向に卍固めを解く気配がない。
「親父さん!早く解いてくれ!もう・・・署に連行したいんだ!」
敏樹が情けない声で親父に頼むが親父は、お?おお??と言った表情で様子がおかしい。
「うーん、なんかさ、体が固まっちまって解けねぇ・・・面倒だからこのまま俺ごとしょっ引いてくれ」
勇次はあまりの事に口が開きっぱなしになってしまった。
敏樹は眩暈がしてついにズルズルとその場にしゃがみこんでしまった。
「ユウジ・・・オレ、泣いていいかな・・・?」
「タカ、お前は今、泣いていい・・・」
応援も到着して、卍固めの状態のまま親父と長尾を連行する。
そのままだと入らないのでワゴン車に、倒れないように親父と長尾を固定した。
ワゴン車が静かに走り去っていく。
終わったのだ。
これで銀星会との戦いの日々は終わったのだ・・・。
「「んなワケねぇだろ!!」」
2人が仮眠室で同時にそう叫んで飛び起きた。
二段ベッドの左右で寝ていたので、同然同時に飛び起きたので互いを見合う。
「・・・えーっと・・・鷹山さん、なんだかとっても夢見が悪そうですが大丈夫ですか・・・?」
「・・・ん、ちょっと・・・なんていうか・・・うん・・・大下さんも、何か夢見が悪そうですが・・・」
新年の警邏から戻った後、互いに仮眠室で寝ていた。
嫌なあの夢が鮮明に記憶に残っている。
情けない長尾の姿が2人の脳裏に過る。
―――今の初夢かぁーーー!?
同時にそう思う。あまりにも酷い「初夢」だった。
どうやら全く同じ夢を見ていたようで、2人で同時に頭を抱えた。
夢とは言え、あの長尾礼次郎を無銭飲食で逮捕したなど、ある意味喜ばしい事だが非常に情けない。
「・・・大丈夫ですか鷹山さん、なんだか寝汗が酷いようですが・・・」
「・・・大下さんも酷いですよ・・・暖房、効き過ぎですよね・・・」
何故か敬語になる2人。
夢と解っていても動揺というよりもあまりの「初夢」に疲れ切っていた。
同時にハァーーーっと深くため息を吐いた。
「タカぁ、きっとオレ達働きすぎなんだよ・・・」
「そう、だよな・・・でもユウジが深夜手当目的でトオルやパパの当番変わってやるからってのもあるんじゃないか・・・?」
「大変申し訳ありませんでした。少々頑張り過ぎました・・・反省してます・・・」
ベッドの上で正座して謝るが、敏樹も正座して謝り返す。
「いえいえ、私も思わず手当のおいしさにつられて付き合った身ですから・・・」
しばらくこのインパクト大の初夢は忘れられないだろう。
実際2人はそれからしばらく「卍固めされた長尾と卍固めを決めた親父」を取調べして送検するまでの夢を見て悩まされたのであった・・・。