Our Dreak After side-T


こざっぱりとした路地にそこはポツンとあった。
時計を見ると一般企業の昼休みも既に終わったであろう時間に人通りの少なっていた。
表に出された立て看板を見てから年季の入った引き扉を開けると威勢のいい親父の声が聞こえてきた。

「よぉ、久しぶりだねぇ鷹山の旦那ァ」

自分よりも年上の店主の親父がにこやかに迎えてくれる。

「あんたぁいつもギリギリだね。もうすぐ終わっちまうぜ、昼定食」

店の奥にある時計を親指で指差してニヤッと笑う。

「ピーク時間に来たら滅茶苦茶混んでるでしょ。昼飯くらいゆっくり食いたいんだ」

敏樹はサングラスを外してカウンター席に座ると、これまた年季の入った壁にぶら下がった紙のメニューを少し見て、

「ほっけ定食」

必要以上の事を言わずに頼む。
古くからある定食屋で店主の親父とその妻が経営している店だ。
安い上に美味いので周辺のオフィス街からの客足は絶えない。

しかしここに来るには少し勇気が必要だった。
初夢の場所がまさにここで、長尾に卍固めをしていた親父がまさに目の前にいるこの親父だったのだ。

「親父さん・・・初夢で長尾逮捕したよ」
「おお?ってなんだ夢かよ!チャッチャとあんなの逮捕してくれ。鬱陶しい」

一時期地上げに遭っていただけにこの親父はヤクザ、主に銀星会系の連中の事を良く思っていない。
・・・そうそうああいった職業の連中を良く思う輩等早々いないとは思うが・・・。

「親父がさ・・・捕まえてくれたんだ・・・」
「ハッハッハ、そりゃ痛快な話だな!でも夢とかって話すと良くねぇって聞くぞ。あんまり話すなよ旦那っ!」

非常に楽しそうにそう言うが、話してしまいたい理由がもちろんあった。

「悪夢だったから話したいの。親父さんが無銭飲食の長尾をとっ捕まえて卍固めしてたんだぞ」

それを聞いた親父は味噌汁を温めながら盛大に噴いた。危うく味噌汁が全部ダメになるところを寸前で顔を逸らしたのはさすがは長年飲食店オーナーをしてきた、ある意味職業病的なところだろうか。

「な、長尾の野郎が・・・無銭飲食で・・・俺がヤツを卍固め・・・!!サイッコーじゃねえか!!」

腹を抱えて大笑いする親父を見て深くため息を吐いた。

「オレにとっては悪夢でしかなかったよ。だから親父さんにサッサと話しちまおうと思ってな」

親父の大爆笑っぷりを見て苦笑いをしてそう言うと煙草に火を付けた。

「クックック・・・いい夢じゃねえか。あー腹痛えなー。ま、長尾が来たらジャーマンスープレックスでも逆エビ固めでも何でもしてやるよ・・・ガッハッハッハッハ!!!」
「ホントにやりかねないからこえーんだよ親父さんは・・・・」

丁度煙草が吸い終わる頃に出来たての定食が出てきたが、親父が笑いっぱなしのためおかみさんが運んでくれた。

「アンタ!笑ってばっかりいないで仕事しなっ!!」

そう言われてチョークスリーパーを決められて苦しんでいる親父を横目に今日も少し遅いランチを微妙な気分で楽しんだ。