Our Dreak After side-Y
こざっぱりとした路地にそこはポツンとあった。
時計を見ると一般企業の昼休みも既に終わったであろう時間に人通りの少なっていた。
表に出された立て看板を見てから年季の入った引き扉を開けると威勢のいい親父の声が聞こえてきた。
「よぉ、いらっしゃい!あんたも久しぶりだねぇ大下の旦那ァ」
「よっすおやっさん!久しぶりぃ〜って、あんたもって何?」
自分よりも年上の店主の親父がにこやかに迎えてくれる。
「おう、昨日鷹山の旦那もこのくらいの時間に来てたぜ。全く、あんたらいっつもギリギリなんだって」
店の奥にある時計を親指で指差してニヤッと笑う。
「ホラ、善良な市民の皆さんのお昼休みを邪魔しちゃいけないでしょ。だからこうしてゆっくり来てるの。あ、サバ味噌煮定食ねっ!」
あいよーっと威勢のいい声が聞こえてきたので、煙草を取り出してできるまでの数分を一服の時間にあてる。
夜は夜で日本酒と美味いつまみを出してくれる店なので勇次はこの店を大変気に入っていた。
特にこの店のサバ味噌煮は大好きだったので大体いつも頼んでしまう。
たまには別の物も頼もうかと思うのだが、つい習慣で頼んでしまう。
「おやっさんさー、最近は「あいつら」は来てない?」
あいつら、とは銀星会系の地上げ屋の連中だった。
一時あまりにも酷かったので2人で追い払った事があった。
「おぅ、おかげ様でな!全くいけすかねぇ連中だよ。今度店に来たら叩っ切ってやるさっ!」
あの時の事を思い出したのだろう、思わず親父は出刃包丁を手に取り袈裟切りのマネをした。
「・・・それじゃおやっさんの飯が食えなくなっちまうからやめてくれ」
「あ、そうだな。ハッハッハ・・・」
怒る気持ちも解らない訳ではないが本気でやりかねないので静かに諌めた。
「おやっさんがそんな調子だから、オレの初夢にまで出てきちゃうんだよ、まったく・・・」
ふとあの「初夢の悪夢」を思い出して思わずボヤいてしまった。
すると親父は不思議そうな顔をした。
「・・・夢?そーいや昨日鷹山の旦那もそんな事言ってたなぁ・・・」
親父の言葉に驚いた勇次が顔を上げた。
なんだか嫌な予感がする。
「・・・・あのー、もしかしてさ、タカが言ってたのって、長尾を逮捕したーとかだったりする・・・?」
「おう、しかも俺がな!」
この先を確かめるのが正直怖かったが、どちらかというと興味も湧いてきた。
「長尾が・・・無銭飲食して、おやっさんが卍固め食らわした、とか?」
「なんでぃ大下の旦那も鷹山の旦那から聞いたのか?俺さー、良い夢だから人に話すと実現しねえぞって言ってやったんだよ。で、大下の旦那はどんな風に俺が出てきたんだ?」
勇次はガクッと力なくカウンターに突っ伏した。
あの初夢で魘された仮眠室の思い出が蘇ってくる。
―――何でタカと同じ夢見なきゃいけないんだよ!!
あまりの情けなさにため息が自然と出た。
「なんだよどーしたんだ?」
親父が少し心配そうな顔でこちらを見てくるので、そのままの格好で勇次は答えた。
「・・・オレもさ、同じ夢見たんだ・・・」
白飯をよそうとしていた親父がら盛大に噴いた。危うく白飯が全部ダメになるところを寸前で顔を逸らしたのはさすがは長年飲食店オーナーをしてきた、ある意味職業病的なところだろうか。
「大下の旦那まで・・・・・同じ夢・・・!!あんたらどんだけ・・・・以心伝心なんだよガッハッハッハッハ!!!!」
「冗談じゃねえ!っていうかおやっさん笑い過ぎ!もー勘弁してくれよー。タカには言うなよ〜」
二日連続の事で親父はもう仕事も手に着かない状態だった。
「それでさ、言ってやったんだよ鷹山の旦那に!長尾来たらアイアンクロースープレックスでもクロスアーム式エビ固めでも何でもしてやるってさー!!」
「じゃあオレは通天閣スペシャルボムでもコークスクリューネックブリーカーでも決めてやるよ!」
負けじと意気込む勇次の元に相変わらず美味そうなサバ味噌煮定食がおかみさんによって運ばれてきた。
そして親父はまたしても「いい加減にしなっ!」とおかみさんにコブラツイストをガッチリ決められていた。
その様子を見て勇次は思う。
あの地上げ屋騒動の時に銀星会の連中にコレが炸裂しなくて良かった、と・・・。
ロープロープ!と叫ぶ親父の声をBGMにサバ味噌煮定食をじっくりと味わう事とした