Story Of My Life Side-T phase-2

「過労だな」

広瀬の一言目はそれだった。

「そんなの大体解ってるよ・・・他には何もないのか?」

勇次がそういうと広瀬は採血をしながら軽い溜息を吐いた。

「んなもん調べないと解らんよ。疲労から来る熱だろうな。思い当たる節はあるだろう?ここのところまともに休みも取ってないだろうしな」

広瀬はおおよその状況は知っていた。
銀星会が無くなって医者も余計に忙しくなったからだった。
夜間診療の当番の時は何度もその手の輩が運び込まれたりするときもある。
今は銀星会が横浜を、いやほぼ全国区を掌握していた頃に比べたらより危険な街だった。
それらを収集すべく奔走している敏樹と勇次の事も解っていた。

「いずれにしてもコレを検査してからまた来る。とりあえずは脱水症状起こさないように輸液だけはしておくから。外し方は解るだろ?じゃあな」

そう言うと素早く器具を片付けて帰って行った。



「タカが過労かぁ・・・。銀星会ぶっ潰してから休み無しだったもんなぁー」

ダイニングから椅子を持ってきてベッドの横にそれを置いて座り込んで敏樹を見た。
相変わらず熱が高いのか苦しそうな表情をしている。
この瞬間がたまらなく嫌だった。
自身の無力さを感じ、後悔ばかりが募っていく。

銀星会の名と共に敏樹の名もまた有名ではあった。
周りの協力もあったが最終的には実質二人であの巨大組織の頭を捕えた。
逮捕者も多数、県警との癒着も発覚し、過去の事件も含めて沢山の事件が再捜査となった。
そんな中で他勢力の進出。最初に潰しておきたいのはもちろん銀星会を潰したという刑事二人。
特に敏樹は何度も命を狙われたりして熟睡できた夜はほぼ皆無。
ある日勇次は敏樹に聞いてみた。怖くは無いのかと。
問われた敏樹はフッと苦笑いして言った。

「怖ろしくないなんて感じたことは、一度も無い」

と。
覚悟はしていた事態。それは勇次も同じだった。
必死に恐怖を押し殺して日々を送っていた。
実際勇次も心身共に大分疲れていた。
普段は隠そうとする本心をポロッと洩らしたのも疲労のせいだったかもしれない。
酒の量も少し増えたように見えた。
銀星会が賞金を懸けた時も運が良いから、で流していた。
確かに運は良かったのかもしれない。あれだけの現場から無事に帰ってこれたのだから。
全員が殉職した、と思った爆発の中、良く生きていられたものだと自分達でも感心してしまったくらいだった。

部屋に静寂が訪れる。
聴こえてくるのはほんの少しのいつもの街の喧騒くらいだ。

―――気遣ってたつもりだったんだけどな・・・

勇次はそう思うと軽くため息を吐いた。
後悔先に立たずという言葉が胸に突き刺さる。

広瀬が置いていった体温計で熱を測ってみるとまだ40度近くの熱があった。
先程の比べたらまだマシになったが息が相変わらず荒い。

―――やっぱ、何もできないじゃないか、オレは

再びため息を吐くと視線を外に向けた。
青空が広がる雲一つない空。
こんなにも平和そうに見えるのにいつどこでまた襲撃者が現れるか解らない。
お互い屈するわけにはいかなかった。
いつものように笑いながら軽口を叩きながら日々を送っていたが、ここ数日は確かにそんなことも減っていた。

いつ日常が戻ってくるのか。
そんなことは解らない。

しばらくそんな憂鬱な気分でいると、胸ポケットに入れておいた携帯電話が震えた。
見てみると広瀬からの連絡だった。
やはり過労ということで後でまた様子を見に行く、との連絡だった。
そんなに早く検査が終わったのかと思い時計を見ると、16時を過ぎていた。
考え事をしているうちに随分と時間がたっていたらしい。
すっかり温くなっていた氷枕を交換して、また椅子に座った。

少し色々と考えすぎたのか、自分も相棒と同じように疲れが出てきたのか、腕を組んだまま目を閉じ、そのまま浅い眠りに落ちて行った。