Story Of My Life Side-Y phase-4

「なるほどねぇ・・・」

提出した履歴書と滝田を見ながら社長はそう言いながら唸った。

「認められませんでしたが、正当防衛だったんです。そこを何とか考慮して・・・」
「過剰防衛、の間違いじゃないのかな?」

勇次のフォローを社長はあっさりと蹴飛ばした。
そう言われて滝田はじっと黙って俯いてしまった。

「滝田くん・・・だっけ。窃盗もあるのよね。うちはお客様から大切な品物を預かったりもするのよ?大丈夫なの?」

社長夫人が柔らかい口調ではあったが厳しいところを突いてきた。
勇次は少しだけイラッとしたがこればかりは仕方のないことだ。
黙って滝田を見た。

「その、確かに人の車を盗んだりしました。今はもう、そんなこと絶対しません。一生懸命真面目に働くって、大下さんと鷹山さんに誓いましたから・・・」
「いくら現職の刑事さんが保証があってもねぇ、裏切られることもあるんだよ」

社長が静かに諭す。
こればかりは反論できない。
事実今まで何人もの犯罪者に「もうしません。真面目に生きます。足洗います」と言われてきたのに再逮捕したことか。
特に勇次は窃盗等を多く受け持つ事もあり、何度もそういった経験があった。

「過去は過去で消せません。信用もゼロどころかマイナスなのは解ってます。でも、こればかりはどうか信じてくださいとしか俺には言えないです・・・」
「そうだね、信用はマイナスだね」

少々頭にきて勇次が立ち上がろうとしたところを敏樹が黙って諌めた。
一瞬そんな敏樹にも腹が立って睨みつけるようにしたが敏樹は黙って首を横に振るだけだった。
完全に圧迫面接だ。

滝田は徐々に俯き、膝の上の拳を強く握りしめ、震わせていた。
勇次は少々ハラハラし、敏樹はそんな様子を黙って見ているだけだった。
社長や社長夫人も滝田のその様子を黙って見つめていた。

やがて勢いよく滝田は立ち上がり、床に膝を付いて深く土下座をし始めた。

「何と言われようと構いません。給料が無くても良いです!働かせてください!こんな自分ですが、働いて働いて、いつか信用を得たいんです!!お願いします!!」

深々と頭を下げてそう言い切ると、後は何も言わなかった。
以前の滝田とは想像できないその様子に勇次は唖然とし、何も声を掛けることは出来なかった。
しばらくすると社長が椅子から立ち上がり滝田の前に来て床に片膝を付いた。

「滝田君、悪かったね。きつい物言いをして。とりあえず頭を上げて、椅子に座って。ホラ」

滝田の頬には幾筋も涙が伝っていた。
社長夫人が優しく微笑んでハンカチを手渡すと、滝田はそれを受け取り深々と礼をしながら促されるままに椅子に座りなおした。

「滝田君の経歴を見てね、一番怖かったのがやっぱりお客様とのトラブルなんだ。ここだけの話、やっぱ居るんだよね。無茶言ってくる「お客様は神様」精神の人って。そんなヤツはこちらから願い下げなんだけど、客商売はそれだけじゃやっていけなくてね」

社長は苦笑いしながら、しかし滝田の目をしっかり見ながら話す。

「もちろんそういうクレーマー体質の人は私達に対応を任せてくれればいいんだけど、それ以外にも繁盛期は物凄い忙しいし、最初は本当に見習いの仕事しか任せられない。これは滝田君に限った話じゃないんだけどね。そういうのをきちんと解ってくれて、どんなに辛くても笑顔で対応して欲しいから最初にうんときついことを言ったんだ」

それは客商売に限った話では無かった。
勇次たちにも覚えのある話。
税金泥棒と罵られても市民の平和を守るのが仕事だった。

「それでも社長さん、ちょっと心臓に悪かったですよ・・・」

勇次も苦笑いしてそう言うと、ようやく滝田が笑顔を見せた。

「うん、いい笑顔じゃない。お客様にもその笑顔、向けられる?」

社長夫人がそう言うと、滝田は大きく頷いてハイ、と返事をした。

「じゃ、決定だ。はい、契約書」
「は、早くないですか!?それに、こんなにお給料貰えるんですか・・・?」
「あ、下げていいの?じゃあもうちょっと下げようか・・・」
「えええ!そ、そりゃ無いですよ!!」

そんなやり取りにドッと事務所内がわく。



その帰り道、最寄の駅まで送ってもらった敏樹と勇次が歩く。

「いい社長さんだな。よかったよ・・・」
「あれで結構厳しい社長なんだよ。仕事もキツいし。けど良ならやっていけるだろ」
「・・・ありがとな、タカ」
「・・・ま、オレも、あいつにはこれから幸せになってほしいしな」

少々らしくないことをしたと敏樹も内心思っていた。
が、あの時のことは今でも鮮明に覚えていた。
別れるとき、あれだけ泣き叫んでいた滝田が頭を下げて消えて行った廊下。あの、後味の悪さ。
罪を犯したのは確かに滝田だったが、更生の機会は与えられるべきだと思っていた。

「よぉし、お礼に明日のモーニング奢っちゃる!」
「へぇ、給料日前でピンチじゃないのか?」
「何とでもしてやるさ!」

勇次は最高に気分が良かった。
滝田はもう大丈夫という確信に似た何かを感じていた。

気分の良さに今夜もそのステップが冴えていた。